糖尿病ケアのための医学知識
「隠れ糖尿病」と「糖尿病予備軍」
医師 小西
みなさん,「隠れ糖尿病」という言葉をご存知でしょうか?「隠れ糖尿病」立派な「糖尿病」ですが,通常の健康診断では見抜けません.その特徴は空腹時の血糖値は正常なのに,食後に血糖値が糖尿病患者なみに跳ね上がることです.ですから通常の健診で行う空腹時血糖値やヘモグロビンA1c値ではわかりません.空腹時血糖値が正常な人の約3割がこの体質を持つといわれています.
ではどうやって診断するのでしょうか?
75gのブドウ糖を含んだ炭酸水を飲み,2時間後に血糖値を調べます.この値が200mg/dL以上で「隠れ糖尿病」,140mg/dL以上で「糖尿病予備軍」といいます.
従来こういった患者さんは診断されずに放置されたり,診断されても「糖尿病の気があります」とか「予備軍です.糖尿病にならないように注意しましょう」という程度の指導で済まされてきました.しかし最近では2つのリスクで注意が必要とされています.1つは,「隠れ糖尿病」ではもちろんですが「糖尿病予備軍」でも多くが糖尿病へ移行し,糖尿病特有の合併症(神経障害・網膜症・腎症)が出現することです.2つめは心筋梗塞や脳梗塞の発症が「隠れ糖尿病」で健康な人の3倍,「糖尿病予備軍」でも2倍も高くなることです.
健康な人の場合,血糖値が正常に保たれるのはインスリンのおかげです.インスリンは血液中のブドウ糖を細胞まで届ける役割を持っています.インスリンが不足すると,ブドウ糖は自力では細胞に入れませんので血液中に留まり高血糖になります.本来は血液中にブドウ糖が入ってきた早い段階でインスリンが出て,血液中のブドウ糖を細胞まで運ぶので,食後の血糖値は140mg/dL以上に高くなりません.「隠れ糖尿病」や「糖尿病予備軍」の場合,インスリンの分泌が立ち遅れるために食後に血糖値が大きく上がります.もう1つ,内臓脂肪の脂肪細胞でインスリンの働きを妨害する物質が作られ血糖値が上がることが知られています.インスリンの分泌の立ち遅れと内臓脂肪の蓄積が合わさると血糖値がより上昇し血管がさらに傷つきやすくなります.インスリン分泌の立ち遅れは糖尿病の家族歴のある人に起こりやすく完全に防ぐことは困難ですが,内臓脂肪を減らすことは生活習慣の改善である程度は可能です.内臓脂肪を減らし,インスリンが働きやすい環境を作れば,血糖値の上昇を食い止めることができます.
血糖値は空腹時のみでなく,食後の上昇にも注意が必要なのですね.