糖尿病ケアのための医学知識

高齢者糖尿病治療においてなぜ低血糖に注意すべきか?

医師 小西

今回は、高齢者糖尿病治療においてなぜ低血糖に注意すべきなのか?について認知症と転倒の観点から解説します。

糖尿病患者さんでは糖尿病でない方の1.9倍認知症のリスクが高いと報告されています(Ott A, 1999)。高齢糖尿病患者さんの血糖コントロールと認知症の発症を検討した報告では、69歳以上の糖尿病患者さん1139例を5年間追跡調査すると、HbA1cが7%以上の人は、4.8倍認知症をおこしやすいという結果でした(Gao L, 2008)。すなわち、血糖コントロールが悪いほど認知症のリスクが高まることが示唆されました。

高齢糖尿病患者さんの低血糖の頻度と認知症発症の関係を検討すると、入院を必要とするような重症低血糖が多いほど、認知症発症のリスクが高くなることが示されました(Whitmer RA, 2009)。逆に、認知機能低下または認知症を伴った高齢糖尿病患者さんは低血糖のリスクが大きいことも報告されています(Feil DG, 2011)。

次に、高齢糖尿病患者さんの血糖コントロールと転倒との関係をみてみますと、HbA1cが7%以上の人は転倒しやすいこと(Tilling LM, 2006)、インスリン治療中でHbA1cが6%以下の人は転倒しやすいこと(Schwartz AV, 2008)が報告されています。つまり高血糖でも低血糖でも転倒しやすいことが示唆されています。

まとめますと、高齢者糖尿病では高血糖と低血糖はともに認知機能低下のリスクになります。逆に認知機能低下があると低血糖のリスクになります。さらに低血糖や高血糖は転倒のリスクにもなります(図)。したがって、高齢者糖尿病の治療においては、高血糖を治療することはもちろん大事ですが低血糖に注意し予防することが重要なのです。

次回は、高齢者における血糖コントロールと死亡リスクについて述べ、高齢者糖尿病の血糖管理はどこを目標にするべきか?について解説したいと思います。

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