糖尿病療養院指指導士のつぶやき

災害時、大事なお薬が持ち出せなかったらどうしよう?

糖尿病療養指導士・薬剤師 時任

こんにちは 薬剤師/糖尿病療養指導士の時任です。
10月になりました。空を見上げると真っ青で澄み渡り、高く白い筋状の雲が見えます。ようやくさわやかな秋がやってきましたね。
みなさん、最近自然災害のニュースが多いと感じませんか?先日は土砂崩れによる電車の脱線事故がありました。今年の夏、大阪の雷の観測日は過去最多で、浸水や落雷による事故が起きましたね。

9月、大阪では南海トラフ沿いの大地震を想定した緊急速報メール一斉送信が行われました。皆さんの携帯にはメールが届きましたか? 私は残念ながら電源を切っていたので配信されていたのかどうか不明です。待っていたけど届かなかった人が多かったとか。8月末には宮城県で震度5強の地震がありましたし、否が応にも東日本大震災の記憶がよみがえり、災害に備えることの大切さを意識させられましたね。


さて今回は「災害時のお薬の入手」について考えてみましょう。いざという時のために、お薬は1週間程度予備を持っておき、玄関などすぐに持ち出せるところに準備しておくことが大切だといわれています。皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。私もお薬をお渡しする時にそのようにお伝えしたことがあります。ただ実際に準備しておくとなると「非常用持ち出し袋に入れっぱなし」のようなことではダメなんですね。


お薬は体調に合わせて処方変更されるものだし、お薬にだって賞味期限(有効期限)があります。包装シートのままであれば通常は(例外もあります)数ヶ月大丈夫ですが、1錠を半分にしていたり、服用のタイミングごとに分包されている場合には、次の受診日までぐらいしか品質保証されていないこともあります。いずれの場合でも保管場所は太陽光など強い光と、高温と湿気は避けなければなりません。そのように考えると、毎回お薬を貰うたびに災害用予備薬を入れ替えるように管理する必要がありますね。インスリンやGLP-1作動薬の予備は冷蔵庫で保管されています。非常時にパニックにならずに持ち出せるよう、普段はインスリンを持ち歩かない人でも保冷バックは常に準備をしておいたほうがいいかもしれません。


でも万が一お薬を持ち出せなかったらどうしたらいいのでしょう。もしくは避難生活が長引いて手持ちの薬がなくなってしまったら? そこで活躍するのがお薬手帳です。皆さんはお薬手帳を持っていますか?糖尿病に関する薬でしたら糖尿病療養手帳にも処方が記載されていますね。その時点の最新の処方が記載されていることが大切です。「調剤薬局でお薬手帳用のシールは貰うけど、手帳にちゃんと貼っていない」なんて方は要注意。緊急時に持ち出した時にばらばらになったり処方が変更になっていたりするかもしれません。最近ではジェネリック医薬品も増えていますから、お薬の名前を覚えるのは大変だし、ご自分のお薬を台紙の色のような外観で覚えていても、ジェネリックメーカーごとに外観が違いますから災害時の薬の入手には役に立たない可能性もあるんですね。
東日本大震災で現地で活躍した医師や薬剤師のお話によると、お薬手帳を持っている人と持っていない人では診察コーナーが分けられ、お薬手帳がある人は比較的速やかにインスリンなどのお薬を入手することができたそうです。


避難所の臨時診療所や被災地の病院では、重症でなければ診てもらえない、内服薬しか処方してもらえないという間違った情報のために、必要なインスリンが受け取れなかった方がいました。その中には1型糖尿病の患者さんもおられたそうです。糖尿病の患者さんは非常事態であってもインスリンなど絶対に必要なお薬は処方してもらえるんだということを知っておく必要がありますね。


そしてもう一つ重要なことがあります。これは仙台市の糖尿病専門医の先生から聞いたお話ですが、避難時にインスリンを持ってくるのを忘れたからと自宅に取りに戻り、津波にあってお亡くなりになった方がいるそうです。その患者さんはインスリンが自分にとって重要なものであることをよくお分かりだったんですね。避難直後はテレビを見ることも難しくて情報も少なく、これからくる津波の大きさなんかも判らなかったのだと思います。お薬やお薬手帳を避難時に持ち出すのを忘れても、安全が確認されるまで決して自宅に取りに帰ってはいけません。差し迫っている災害から身を守ることのほうが大切です。


あとはお薬があっても水がなければ服用できませんので飲料水の準備が必要です。東日本大震災ではインスリンの入手は出来てもアルコール綿やインスリン用の針の入手が難しかったそうです。


今回は災害時のお薬の入手に絞ってお話しをしてみました。災害時でも糖尿病薬やインスリンの処方はしてもらえますが、自分の避難した場所の近くにすぐに診療体制が整うとは限りません。


1.自分で予備の薬を準備しておく.
2.少なくともお薬手帳は肌身離さない.
3.しかし持ち出せなくてもあわてない.取りに帰らない.
身の安全を確保することが重要であることを覚えておいて下さい.


自分にできる「備え」をしてみましょう。

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